Skip to main content.
EXtra navigation: S-moveへ戻る
FIBA WORLD CHAMPIONSHIP 2006

ジェリコ・パブリセビッチ氏インタビュー(3)

その1は こちら その2は こちら


世界選手権で日本に足りなかったもの
−この世界選手権と、それまでの4年間で成し遂げたことを、日本はどう生かしていくべきでしょうか。
 今の周りの雰囲気や環境を見れば、日本のバスケットボール界が損をするような状況が生み出されています。その責任は協会の上に立っている数人の責任です。本来は、日本代表チームがやったことに対して誇りとプライドを持つべきです。先ほども言いましたが、このチームは歴史に入ったチームです。日本のチームが次にこれだけいい内容と成績を取ったら連絡してほしいです。その時がすごく楽しみです。ですが、今のバスケット界では、ドイツと10点差のゲームは当たり前なこと、パナマに20点差で勝つことも当たり前なこと、そしてニュージーランドに負けたのは許されないことという空気が流れています。しかも後半ばかり細かく分析されています。先ほども言いましたが、前半で18点のリードを得たのは誰でしょうか。文句を言われている人達か、それとも違う人達が取ったのでしょうか。世界の中では、日本はバスケットボール的に全く相手にされていない国です。ニュージーランド戦の記者会見で、ニュージーランドのボールドウィンHコーチは「日本が素晴らしいパフォーマンスをして驚いた。私達は経験といい運のおかげで最後救われた」といった発言をしていました。世界は今初めて日本を認めるようになりました。でも、国内ではそれをいい刺激としてバスケットボールを盛り上げさらに発展させる−それをやるべき理由は過去の代表はこんなことを成し遂げたことがないからです−代わりに逆に、全て否定して、どんどんまた日本のバスケットボールを沈ませています。今の協会の態度を見れば、世界選手権の成績は不十分というわけです。ということはカタールでの次の大会(アジア大会)は、決勝にあがらない限りだめということでしょう。シリアやヨルダン、イラン、レバノンなどは全て相手ではないというわけです。ニュージーランドに勝たないといけないということは、それらのチームが相手ではないと言うのと同じです。それが、私が1番残念に思っていることです。今の代表チームこそ、この世界選手権に出たチームの中でも1番伸びたチームです。1番成長したけれど、でもリミットもあります。全試合20点差で負けてもおかしくなかった。それこそが日本の実力、現状です。日本には誰がいますか。世界の舞台で価値のある選手は誰ですか。アメリカ代表にさえ起きることが、桜井や竹内兄弟、古田に起きたらいけないことでしょうか。日本にはヤオ・ミンやジノビリがいますか。ガソルもいるわけではありません。だからもっとリアルに考えて現状をよく理解することが必要です。現状を見ずに高い所ばかり見て、高い目標だけでやっていたらもうどんどん落ちていく一方です。

−くしくも、カタールでのアジア大会での目標は“優勝”と言われています。先ほど、バスケットが詳しくない人には何も言えないとおっしゃいましたが、では、バスケットのことをわかっているはずの関係者になかなか現状を見ることができない人がいるのは、なぜだと思いますか?
 なかなかいい質問ですね。今の段階になって1つ言わないといけないことは、昨年のマカオでの東アジア競技大会でのことです。その大会に向けて、すごく積極的な準備をする代表がいます。例えば台湾(優勝チーム)です。彼らは何ヶ月も合宿をやって臨みました。それに対して、私は1度も「私は魔法使いだ」と言ったことはなく、3日間の合宿で成績を取れと言われても不可能です。その状況で、あるバスケット協会関係者は、大会中に監督を変えるべきだ、他の選手を入れるべきだなどと選手が聞こえる前で言っていました。それは大会期間中はやったらいけないことだと私は思っています。大会前に言うことや大会後に決めることはどのチームでも自由なことです。今も新しいコーチになって、私の仕事は世界選手権で終わったわけで何も問題はありません。何も怒ったり悔しがったりしていないわけです。でも試合中、大会中にああいう発言をしたら、他の国だったら即首になります。そういう悪い雰囲気を彼が作らなければ優勝できました。もう1つ、世界選手権やその後の話をすれば、この4年間でこのチームが果たしたこと、先ほど話した2つのキリンカップ優勝などの結果が全て当たり前になっているからこそ、今、次の監督が要求されていることはかなりハードルの高い条件だと思います。アジア大会では1位、2位、まぁ3位以内には入らないといけないわけです、この世界選手権が納得できる結果ではないのなら。ここを目指す、と言うのは簡単ですよ。でもやるのは大変です。

−バックアップする協会が日本の現状をわからないといけないということが日本の課題ということでしょうか。
 私は3年間毎回、どう思っているかを言い続けました。何をやるべきかを言い続けたつもりです。世界選手権でもそのことが通用すると証明できました。皆さんがどれぐらい気付いているかわかりませんが、1人の無名な桜井が、柏木が、学生でサイズのあるプレーヤーとシーズン中に試合をやるチャンスがない竹内達が、あのレベルの相手とあのレベルでの試合ができたことはどれだけの意味があるでしょうか。これ以上の大会は存在していないんです。
 まず何を直すべきかと課題を言い始めると、私は3月の強化委員会の会議に呼ばれませんでした。私だろうが誰だろうが、監督の立場として呼ばれるのは当たり前だと思います。そして、監督の私に一言もなく候補者リストが発表されました。それは世界のどの国でもあり得ない話です。なぜなら、大会の責任が誰にあるかといえば私でしょう。責任は監督にあるからこそ、監督がメンバーを選ぶのです。強化委員会が候補者を付け加える権利はあります。でも私が選んだメンバーをなぜ外したのか。それは私にはいまだに理解できません。それに、4月19日の記者会見で3人目のアシスタントコーチが入ることが発表されましたが、その連絡がきたのは前日の夜でした。もちろん彼は素晴らしい人で仕事をよくやってくれて何も問題ではないのですが、でもプロの組織がそういうことをやりますか?別のスタッフはことあるごとに首にすると言われ続けていましたが、それで彼が仕事をしやすい環境でしょうか。ニュージーランド戦の時も、私はその発言は聞こえなかったけれど、あとで聞いた話によると試合の切羽詰っている時に“ここに他のセンターがいれば違う”とベンチの後ろで言っている人がいたそうですが、試合中にそんなことを言うべきでしょうか。その中での選手達のモチベーションはどうなるのか。そういう課題があると、当然日本のバスケットボールは前に進まないわけです。
 私はそういうのをもう気にもしていませんでした。でも、それはそのポジションにいる人がやるべき仕事とは違うものだと言えます。監督をバックアップするのが協会の仕事です。それか、首にするのか。思う通りに私を首にすることができなかったから、ずっと足を引っ張り続けるのは私に言わせればあり得ないことです。ニュージーランド戦の3点の理由はそこにないとは誰も言い切れません。

−そのようなことがあって、コーチはどう感じましたか?
 強化委員会に呼ばれず候補者リストが発表されるような状況なら、もう辞めて帰ろうと思ったのですが、それは私を信じている選手達を裏切る行為になると思って、残りました。私は3年間皆がやってきたことを、今年に入って裏切ることはできなかったのです。私はまた、協会の何人かの関係者にはとても感謝しています。いいアドバイスをもらいました。

−確かに世界選手権を通して、選手が本当にコーチを信頼しているのが伝わってきました。
 それが1番、私が嬉しいことで、逆に言うと選手がコーチを信頼していない限り仕事もできません。1つわかってもらいたいのは、私は外国人でもそういう若い人達と信頼関係を作ることができました。また、古田選手や折茂選手のように、経験があり過去に色々見てきた選手があれだけいいことを言ってくれるとそれはとても重みがあります。例えば節政選手はそんなにプレータイムがあったわけではありません。でも色々な面でこのチームを支え、手伝ってきました。そういう選手達がやってきたこと全てがこの世界選手権で出せたクオリティにつながったのです。そういう気持ちを考慮せず、クオリティだけで見れば、日本には世界選手権で出せたまでのクオリティはありません。世界のレベルでは当然ない。アジアの中でも頂点に立つクオリティはないのです。
 また、カタールには毎年新しい選手が来ますが、それは出来上がった帰化した選手です。私達はそういうことをせずに全ての選手を練習させて作り、ここまで来られたこと、それこそが日本の成功ではないでしょうか。石川専務理事も、「このチームの選手達の力を最大限に引き出した」と評価してくれました。皆さんに理解してほしいのは、クラブも作るものですが、代表はさらに作らないといけないものなのです。必要なポジションの選手を作らなければなりませんが、そのプロセスは長い時間がかかるものです。そういう意味ではフィジカル的に外国より弱く、身長もないしガタイもない日本で、3年間でここまでできたことは奇跡です。

−世界ではどのように代表チームを作っているのでしょうか。
 もちろん、皆若い時から選手を作っていきます。例えばスペインは2001年のヤングメン(21歳以下)のメンバー表を見れば今来ている選手がいます。アルゼンチンもギリシャも、皆ジュニアからやってきているメンバーです。スロベニアもそうだし、どの国もそうです。逆に言うと、それが世界で通用する唯一の方法です。ヨルダンの話をすると、アンゴラの前ヘッドコーチが監督になり、同じポルトガルからアシスタントコーチを連れて行きました。アシスタントコーチは指導を一貫するため若手育成プログラムを任されています。ヨルダンの指導者教育も2人でやっています。

−その国々と戦うために、日本には何が必要ですか?
 ヨルダンのようなやり方をしろとまでは言いませんが、ビジョンを持ち、継続性を持って世界を知るべきです。私は、アシスタントコーチは日本の協会の方で決めて下さいと言っていました。強化を継続させるためですが、彼らを外してしまったのでは何も意味がありません。ヨーロッパ遠征も、今年女子にはお礼を言われましたが、男子は私のコネクションをこれからもいい意味で利用していこうという気持ちが見られません。
 日本は今の段階では、このチームが世界選手権で見せた以上は見せられません。またこのクオリティの試合をいつ見せられるかもわかりません。それが間違っていると証明されたなら私が1番喜びます。次の代表がさらにいい成績を取れば、私が1番嬉しい。新しい監督にも、また新しく入ったメンバーにも、もう全員に幸運といい成績を願っています。私は別に、自分の仕事が終わった後、次のチームに何か悪いことが起きることを願っているわけでは全くありません。でも、私が見てきた中では日本は過去に戻っているだけです。前に進んでいない。アメリカのような態度を示しています。この選手とこの選手をとって、で終わりです。ですから、先ほどの質問の答え、日本のバスケットボール界の課題を直すには多くのことをやらないといけませんが、1番いいのはそんなに世界のことをよく知っているその協会幹部に聞くことです。彼こそ日本のバスケットボールの未来を決めました。それが未来と呼べるものであれば。言葉が厳しいかもしれませんが、私が話したのは全て事実です。


パブリセビッチ氏の今後
−今後どうされるか決めていますか? できればまだ日本にいてほしいですが…
 私は世界選手権のために日本に来ました。はじめに4年分の契約にまとめてサインし、それに対して私は責任を持つ義務がありました。しかし、強化部長が変わらない限り、私は日本代表チームの監督を続けるつもりは全くありませんでした。そういう人がいることはモチベーション的にはいいのですが、あのポジションにいることだけは問題です。あの立場にいる人ならあの柵の向こうまで見えていないといけませんが、その木(テーブル沿いの植え込み)すら見えておらず、このグラス(手元のコップ)までしか見えていません。それでアジア大会で優勝することは、世界選手権でベスト16に入るくらい奇跡でしょう。北京五輪も、私が続けていたならリアルに行けたと思いますが、(インタビューの後)1ヶ月ほどしたら、私はクロアチアに帰ります。いくつかオファーもあります。でもそこに行くかどうかはまた別に考えなければなりません。

−4年間過ごした日本のファンに、メッセージを下さいませんか?
 今日、こうして問題点を言った理由は、また今後起きないためです。世界選手権中と、世界選手権前には雰囲気を悪くしたくなかったからこそ、誰にも言わなかったのです。また、これも私は絶対最後に言うべきことだと思っていたのですが、日本の大きな問題の1つは、皆が知っていても黙っていることです。世間的に何も言わない。マカオで起きていたことに対して、スペインやギリシャだったら世間が即首にするよう圧力をかけます。大会が終わってから、満足だ、満足ではないと言うのは自由です。何も、誰も。でも大会中にあってはいけません。だから、こうして改めて私の方から言います。
 グループラウンド最後の日に、選手だけでなくメディアの皆さんも何人かが見せてくれた気持ちはどのお金でも買えないものです。ロッカールームでは半分が泣いていて、それはチームが大きな家族のように4年間一生懸命やってきて、いい雰囲気の中で努力してきたからこそ起きたことです。埼玉では会場から帰る途中に長い間囲まれて、サインや写真やで1箇所から動けない状況でした。皆、良かったとかお疲れ様とか、ありがたい言葉を贈ってくれました。私はそういうファンの皆さんの気持ちのためにスポーツをやってきました。

−もう会えないかと思うと、話が終えられません。
 私もちょっと残念だと思います。スポーツは事務作業ではありませんからね。エモーション、気持ちを入れない限り成功は不可能です。このチームにはそういう気合、気持ち、やる気がありました。皆が一緒に努力してやってきて、皆さんもそういうのを見て下さり応援してくれました。
 私の1人の友達が、私にこう言いました。「さよならとは言わない。また会おう」と。先のことはわかりません。数年前に、「日本に数年後に行くよ」と言われても私は信じなかったと思います。それと同じことです。そういうことで、また会えるかもしれませんよ!

文 北村美夏/2004年度より、ジェリコ・パブリセビッチ前ヘッドコーチ率いるバスケットボール男子日本代表を取材。 バスケットボール世界選手権2006特設サイト

2006年10月24日
TOP