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嘉納杯国際柔道大会に行ってきました 谷川れい


2日間通し券で3000円
世界の選手が見ることができてこの値段!
 アテネオリンピックや、カイロ世界選手権のときに、テレビ越しでしか見ることができなかった海外の有力選手が東京にやってくる。

 17歳という若さで、アテネの81キロ級を制したギリシアのイリアデスや、カイロ世界選手権の決勝で、内柴正人をまったく寄せつけずに勝利したブラジルのデルリJr、他にもトメノフやマカラウなど、勢ぞろいとまでは言えませんが、世界の一線で活躍する海外選手が、嘉納杯国際柔道大会(以下、嘉納杯)にエントリーすることになりました。
 今年は世界選手権も五輪も無い年で、さらに多くの選手は2月、3月に行われるヨーロッパのサーキット(注1)があるため、この時期は、まだ調子が上がってきっていません。
 それでも、多くの外国選手を生で見る機会は、今日と明日の日本武道館にしかない。日本で行われる唯一の国際大会、嘉納杯に行ってきました。


2階は、ほとんど観客が入っていませんでした。
 

群雄割拠の66キロ級

注目をしていたのは、66キロ級です。アテネ五輪で金、世界選手権で銀メダルの内柴を脅かす若い選手が出てきました。筑波大学の秋本啓之。一般的には、無名の選手ですが、彼は、高校時代から注目されていた選手です。僕が初めて、彼の名前を聞いたのは2003年。春に行われる高校選手権でした。個人戦が無差別級で行われる大会で、かつては井上康生や、真喜志らが優勝していて、無差別級ながら重量級(100キロ超級、95キロ超級)の選手のためのとも言える大会です。

 しかし、秋本は66キロ級という体格で、自分よりも重い体重の選手達に、次々と勝って優勝してしまいました。当時の新聞記事を引用します。


柔道 全国高校選手権初日 66キロ級秋元が大会史上初の無差別V
2003.03.21 日刊スポーツ 
 第25回全国高校柔道選手権          初日
◇20日◇東京武道館◇個人戦◇男子無差別級、女子7階級

 66キロ級の秋本啓之(神奈川・桐蔭学園2年)が無差別の個人戦を制した。決勝では体重130キロの小坂篤史(和歌山北2年)に判定勝ち。軽量級選手の優勝は大会史上初の快挙だった。父勝則さんは75年世界選手権(ウィーン)軽中量級銅メダリストで将来が楽しみなサラブレットだ。女子48キロ級では福見友子(茨城・土浦日大2年)が連覇を達成した。

 まさに小さな巨人だった。秋本は2回戦で体重が2倍以上の松本雄をぶん投げた。開始14秒の背負い投げ。「あれで波に乗っちゃいました」。見上げるような相手にも怯まない。五輪2大会連続金メダルの野村忠宏を思わせる背負い投げで勝ち上がる。決勝でも130キロの小坂に判定勝ち。史上初の軽量級王者が誕生した。


 桐蔭学園を卒業後、筑波大学に進学した秋本は、成長を続けます。昨年は、世界選手権前で強豪が揃うといわれる2月のフランス国際で優勝。実績、評価ともに、アテネ五輪・金メダルの内柴正人を一気に追い抜いて、カイロの世界選手権に代表で選ばれるのではないかというところまで来ました。

 二人が決勝で対決した、カイロ世界選手権の最終選考会にあたる4月の全日本選抜体重別選手権。内柴が試合の開始直後に、巴投から秋元の体を倒して、腕ひしぎ逆十字固めにいきます。得意の連携技。秋本の体が返って、腕が決まりました。たった30秒で、内柴の一本勝ち。代表には、内柴が選ばれ、世界選手権で銀メダルを獲得します。選ばれなかった秋本は11月に行われた講道館杯で全て一本勝ちで優勝。内柴の不在の中、国内では、際立った存在感を示しました。

 2006年となって、最初の大会となる嘉納杯に二人がエントリー。さらに66キロ級は内柴が手も足も出なかったブラジルのデルリJr、アテネ3位のチェ(韓国)も出場するなど、国内の最強決定戦でありながら、世界のトップレベルも見られることになります。

内柴正人の元気が無い

 緒戦の二回戦を待つ内柴が、足払や、背負など、一人打込で体の動きをチェックするのを2階の観客席からも伺うことができます。準備不足のような様子には、少し緊張しているのかな?と思いました。世界選手権以来、大きな大会は、5ヶ月ぶり。ただ、開いた期間もそうですが、内柴は、「正直、気持ちは切れています」と公言するなど、五輪も世界選手権も無い2006年のシーズンに対して、戸惑っているように感じていました。以前なら、五輪で金、世界選手権で銀を取った選手なら、この一年を休むという選択肢もあったと思います。「柔道が仕事ですから」それも、内柴が公言している言葉です。この嘉納杯に、彼は出場してきました。

 調子の悪さというよりも、内柴の気持ちの低さは、試合内容からも感じます。2回戦のロシア・クズイエフとの試合では、開始して、すぐの技にに、巴投から腕ひしぎ逆十字を狙っていきました。得意の連携技といえば、そうですが、少し横落しにも見える巴投には、とにかく安全に行こう、寝技だったら対応できるという消極的な姿が、垣間見えます。アテネ五輪の時、彼の強さは、積極的にかけていく立ち技と、どれだけ崩れても、相手よりも上に立っているというボディバランスでした。

 3回戦では、豪華な掬い投げを見せていましたが、自分からかけるというより、相手の技を受ける戦い方には、「ああ、相当調子が悪いな」と感じます。内柴は、それでも2回戦のクズイエフ(ロシア)、3回戦はアテネ五輪・3位のチェ・ミンホ(韓国)と一本勝ちで勝っていきました。

 そして、彼のスイッチがパッと入る瞬間が訪れます。準決勝、小山田和行(綜合警備保障)との試合でした。ポイントをリードされていた、終盤。このまま、終わっちゃうのかな、負けちゃうのかなという気持ちが僕のほうに出てきた時でした。内柴が、スッと前に出て、小山田を抱きかかえるように、間合いをつめます。足車のように、右足を相手の左膝に出して、クルッと縦に一回転させました。
 
 主審は、高々と手を上げて一本勝ち。時計は残り33秒という逆転での勝利です。スタスタと、何もなかったように試合場から去っていく内柴。無表情ながらも、どこか彼にスイッチが入ったような感じを受けました。もう一つの準決勝では、秋本がデルリJrに勝った韓国のイ・ジェミンから効果を奪って、決勝進出。昨年、4月以来の対決が、国際大会である嘉納杯の決勝という舞台で、実現しました。

内柴のペースで進む決勝


66キロ級決勝 お互いに低い姿勢での勝負
 決勝は、試合序盤から内柴が積極的に秋本を寝技に引きずり込みます。寝技の得意なはずの秋本は、昨年の選抜での経験か、それに付き合いません。中盤には、巴投から、逆十時の得意パターンでも崩れなかった秋元に対して、寝ている状態から、相手の足を刈るように体制を崩す、「草刈」を使って、寝技で攻めていくなど、徹底した戦い方。実際、ペースは内柴が握っていました。秋本が「指導」を受けて、ポイント的にもリードしている時間もありました。しかし、試合後に「なんとしてでも勝ちたかった」と振り返る秋本は、一つの技を繰り出します。

 「奇襲技なんで、次は、自分の得意技で勝ちたい(秋本/試合後のインタビュー)」

 一瞬、現場では、何が起こったのかわかりませんでした。単純に、肩車を狙っていったんだと思ったんですが、後から映像で確認をすると、まず背負をかけて、それで、一回転してから、肩車というか、肩に内柴を載せる。そこから前に投げるのではなく、足を取って内柴を後ろに倒す。朽木倒。二重三重のフェイント。

 倒れた瞬間に、内柴が、一瞬、寝たまま止まってしまいます。攻勢に試合を進めながらも、やられてしまった奇襲。その一瞬を逃さずに、秋本が押さえ込みに入りますが、内柴は、なんとか外しました。

 ポイントを奪われて、内柴が、攻めます。ただ、秋元の体を崩すまではいきません。終了間際には、準決勝で一本を奪った、抱きかかえてからの小外掛も見せますが、秋本が難なくしのいで、試合終了。19歳の秋本が、初優勝を果たしました。


表彰式での二人 これからの競り合いが楽しみ
 試合の礼が終わって、内柴から秋本のほうに歩いていって、握手を求める姿には、好試合になったことが、とにかく良かったと思います。調子の悪い中でも、秋本相手に、これだけの試合を見せた内柴の強さ。どこか五輪や世界選手権では、運が良い選手という印象もありましたが、今日の試合では、寝技を徹底した作戦と、それを実現したということに強さを感じました。その内柴に、奇襲技ながら勝った秋本。

 来年の世界選手権、再来年の北京オリンピックに向けて、二人の日本代表に対する競り合いが楽しみです。 

(文、写真:谷川れい)

(注1) ヨーロッパサーキット
 1月から3月にかけて、欧州で行われる柔道の国際大会シリーズ。ヨーロッパ各国で行われているがロシア国際、ドイツ国際、フランス国際は、Aトーナメントとして、有力選手が集まる大会。日本代表も、1,2番手の選手を毎年、派遣している。
2006年01月16日
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