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ジェリコ・パブリセビッチ氏インタビュー(2)

その1は こちら


世界選手権・グループBでの戦いの軌跡
−世界選手権に話を移します。ドイツ戦の善戦は、日本のその後にどういう意味がありましたか?
 当然チームにとって大きな刺激になりました。世界のあのレベルのチームと過去の日本はいつ戦えたと思いますか? そして試合前に10点差で終わると予想できたでしょうか。ドイツは全力でかかってきていたし、ドイツの監督は10点だけの差で終わったことに試合後すごく怒っていました。つまり、すごくクオリティの高い試合で日本の実力以上の出来だったんです。ゲームを通して本来どおりの内容を見せました。ただ、ノビツキーが最初のシュート6本中5本を決めると、日本にはもうなすすべがありません。

−2戦目のアンゴラ戦ですが、大会前に“アンゴラとパナマがターゲット”とコーチがおっしゃっていたこともあって周囲はそれほど力の差はないのだろうと思っており、その分大敗して落胆していました。
 そういう、バスケットボールにあまり詳しくない人に対して私は何も言えません。アンゴラに関して正しい判断をする―それができるよう導くのはメディアの役割ですが―ためには、アンゴラはどういうチームなのか、どう機能していてなぜ連続してアフリカで優勝しているのかを理解しないといけません。はっきり言いますが、クオリティ的に日本は世界のベスト16に入るチームではありません。それが実状です。カタール(アジア3位)は1勝もできず、レバノン(アジア2位)もベスト16から外れ、中国は最後の逆転シュート1本によってベスト16に入りました。そして、次の決勝トーナメント1回戦でギリシャに30点差で敗れたわけです。ヤオ・ミンとワン・ジジがいるチームで、です。それに対して、アフリカ大陸はバスケットだけではなく世界のスポーツの未来です。前のモチベーションの話にも関わってきますが、あのチームと戦うには最低走らないといけません。走ることさえできないのであれば、試合になりません。

−そのチームに、なぜ“勝つ”と言っていたのですか?
 ニュージーランドは世界で4位のチームですよ。アメリカが6位だった前回の世界選手権で4位に入った時と同じメンバーで来ていました。ペロ・キャメロン(ニュージーランド#11)、結局私達を負かすシュートを決めた彼はその時ベスト5に選ばれており、ということはあのポジションで1番いい選手です。そういうことを総合して考えてみれば、当たり前のことです。

−次のパナマ戦は、初勝利をあげましたが終盤日本の選手が焦っていたようにも見えました。
 私はそうはとらえませんでしたが、逆に言うとそれも当たり前のことです。私が日本に来た時、いろいろな関係者から次のように言われました。“日本チームの特徴は、落ち始めたら最後まで落ちる”。それは確かでした。そう考えると、私達はチームの精神力をよくすることができました。選手達が焦ってしまうのは、それだけ勝ちたい気持ちがあることの証なんです。何年間もそのためにやってきたわけですから。その焦りはさらに多くニュージーランド戦で見えました。それはスポーツ界に存在している、「勝つことがこわい」心理です。もう目の前に勝利がある。それでその勝利について深く考え過ぎる。それでどんどん最悪なパターンを考えて落ちていく。自分が次にこういうプレーをするべきだというのを考えずに、勝つことだけで頭がいっぱいになるんです。

−それは、中1日で修正できるようなものではなかったのでしょうか。
 他の試合を考えてみてほしいんです。アメリカが準決勝でギリシャと対戦した時、2Q半ばで12点リードしていたのに、3Qの残り5分にはもう14点負けていたんです。2つのQ、時間にすれば10分ほどで25点差をつけられたんですね。ドウェイン・ウェイド、レブロン・ジェームスなどがいて、です。ギリシャとスペインの決勝戦も23点差です。実力的にはほとんど差はありません。でもどのチームでも、そういう日があります。イタリアが2秒で5本のフリースローを外したこと(決勝トーナメント1回戦・リトアニア戦)はどう説明しますか。世界的なプレーヤーで、世界的なシューターであるジノビリが3位決定戦でフィールドゴール2/9だったことはどうしたら説明できますか。長年代表でプレーし続け、色々な所で結果を残している素晴らしい選手でもそういう時があるわけです。スポーツと緊張感は、当たり前のように存在しているものなのです。


大一番・ニュージーランド戦
−勝てば自力で決勝トーナメントが決まる試合だったニュージーランド戦について聞かせてください。まず前半はいかがでしたか?
 あのニュージーランド戦の前半は、この4年間で最も良かった前半です。ディフェンスが素晴らしかった。ニュージーランドの過去の成績を調べてみれば、前半で20点しか決められない試合は長年なかったと思います。経験があり、ヨーロッパで活躍するプレーヤーもいて、この大会までは正式に4位だったチームを私達は前半20点に抑えることができました。日本のチームが、ですよ。ニュージーランドはコンタクトがある中でしかシュートを狙うことができず、それを決められませんでした。それであの点差になりました。

−その状態から一転流れが変わってしまった後半は、何が起こっていたのでしょうか。
 私は選手達に前半が終わってこう言いました。「0-0だと思え」。18点のリードも、相手が1分で2本の3ポイントシュートを決めれば12点差になります。12点差は3分あれば逆転可能なのです。そして3Q開始3、4分目のタイムアウトの時には、選手達に「このまま続ければ負けるかもしれない」と言いました。もうその段階で、選手達は勝つことがこわくなって必要のない焦りを見せ始めたからです。クオリティの高いチームはリードした分自信が大きくなっていきますが、私達はすごく勝利が近い状況で逆に走ってしまったのです。と言っても一気に落ちたわけではなく、4Qに入る時も12点リードしていました。でも徐々にリズムを落としながら、ドリブルをスティールされたり、パスをカットされたりするなどいくつかのばかなミスをしてしまいました。その中で、ニュージーランドのキャメロンは70%(後半5/7)の3点シュートを決めました。それは結構運が悪かったと思います。相手が唯一リードしたのは最後の勝ち越しシュートだけだったのですから。でも、それがスポーツです。

−その焦りを沈めるために、どうしましたか? 後半、タイムアウトは取りませんでしたね。
 テレビタイムアウトを含めると、タイムアウトの数は後半だけで最大9個になりました。この世界選手権でタイムアウトの意味が完全になくなりました。毎回テレビタイムアウトが入るので効果がないのです。だからそのタイムアウトの時に言うことを言って、あとは交代しかありません。でもどうなるかわからないからこそスポーツはおもしろいのです。

−その交代ですが、ベテランガードの節政選手を投入することも考えていましたか?
 確かに節を入れることは可能でした。柏木の代わりに入って、落ち着かせることができたかもしれません。でも逆に、パナマ戦での柏木のプレーがどうだったかを考えてほしいのです。私としては、あれだけ素晴らしいプレーをパナマ戦でしたのであれば、このニュージーランド戦でも必要なことをやってくれるだろうと思いました。その、節を入れるべきかどうかというのは、私も全体的に考えれば同感です。入れるべきだったかもしれません。でも、私達のニュージーランド戦で最も課題になったことは点を決めることだったんです。後半に入ってから点を全然決められない状況でした。いくつかオープンシュートもありましたが、それを決めないと逆転されてしまいます。出ていない選手が出ていれば勝てたというのはどのゲームのどの負け試合でもいつも誰かが言い出すことで、そういう経験のある選手がいれば最後勝ち越すことができたという説もありますが、逆に私から聞きたいのはそもそも誰が18点のリードを作ったのでしょうか。今文句を言われているその選手達でなければそのチャンスさえ手に入らなかったでしょう。

−では、得点をとるためにどういう指示を出しましたか。例えば折茂選手にボールを集めよう、といった指示はありましたか。
 私達は1人の選手に全てをかけるスタイルではありません。当然相手チームのコーチも素人ではないので、折茂のシュート力や彼がどういうプレーヤーかをよくわかっています。そして、相手チームのプレーを見ればすぐに、彼らが完全にシューターを止める作戦だったことがわかります。だからこそインサイドの選手がオープンシュートを打てる状況になったのです。206cmのクレイグ・ブラッドショー(ニュージーランド#14)が折茂についている状況で、それを超えてシュートを打てるわけはありません。ただそういうことは全て予想できて、日本にチャンスがなかったわけではなく、シュートまで来ていたけれど外してしまったのです。もう1度言いますが、あれだけ高いレベルのチーム相手に、1つでもレイアップを外してしまえばそれで負けがほぼ決まりです。でも、逆に言えば古田こそあそこまでこられた理由です。皆、生身の人間ですから素晴らしいことをたくさんしても1つのミスも起こるわけです。

−ニュージーランド戦の事ばかり聞いて申し訳ありませんが、忘れてはいけないのでもう少し聞かせて下さい。
 それはメディアとして当たり前のことですが、でも皆さんの質問は前半ではなく全て後半のことです。スペインほどのバスケットのクオリティのある国ならそれも当然です。でも、日本はまだそのレベルではありません。それは事実です。日本は基本的なこととの戦いなのです。パスミスをしなかったら、ドリブルでスティールされなかったら嬉しい、無意味にボールを失わなければ嬉しいくらいです。でも、後から色々なコメントを聞くと、ニュージーランド戦はリードもせずに20点差で負けた方が皆「まぁ、それくらい差があるから」と納得してゆっくり寝られるような状況です。

−では、コーチとしてはこの試合の結果をどう思っていますか?
 カタールの話をすると、グループラウンドのギリシャ戦で、最終的には20点差で負けましたが前半には最大16点リードしました。カタールのメディアを見れば“歴史的なカタールの前半。素晴らしかった”という評価です。世界選手権のレベルをわかっているからこそ、そういうコメントをされるのです。今回、地上波のテレビ放送がなかったのは非常に残念です。アメリカのジェリー・コランジェロさんもそのことに1番驚いていました。多くの人は知りませんが、私は日本に来て、選手達にドリブル・ピボット・パス、そういうところから教えないといけない状況で、はっきり言いますがほとんど代表監督がやるべき仕事以前のことをやっていました。レベルの高いことにはほとんどたどりつかなかったのです。だから私達は戦術で試合に負けたのではなく、ドリブルミスやスティールといったことで試合の負けが決まったのです。

その3 に続く


2006年10月23日
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