オールジャパンプレイバック(3)オン・コート・ワンがもたらした若手選手の明と暗
1月1日から14日まで行われた第83回天皇杯・第74回皇后杯全日本総合バスケットボール選手権大会(通称オールジャパン2008)。女子は富士通の3連覇、男子はアイシンのチャレンジカップとの2冠で幕を閉じたが、勝敗の行方とは少し離れたエピソードを、3回に分けて紹介する。最終回の今回は、オン・コート・ワンによってプレータイムを得たルーキー、逆に出場機会を奪われてしまった若手選手の葛藤を取り上げる。
準々決勝
オーエスジー 77(16-24 13-20 22-21 26-22)87 日立
今年はベスト8をJBLの8チームが占め、準々決勝以降は来シーズン導入される“オン・コート・ワン”の前哨戦と言える戦いになった。
オーエスジーは、インサイドの#50エスティルではなくガードの#11ホーキンスをスタートにしたため、インサイドは#7太田と#30井上の和製、しかもルーキーコンビがスタートに名を連ねた。
すると第1Qから#30井上聡人がボールをもらうとダンクを試みる(結果的には日立#30トーマスにブロックされた)など積極性を見せる。だが、太田の方は持ち味を出し切れず、開始5分でこちらもルーキーの#24長谷川と交代になった。長谷川はというと、1Qにうまくペイントエリアで面を取れたシーンがあったが、ボールを入れてもらえなかった。
若手選手、特にルーキーともなれば、大学時代にこの代々木第2体育館でガンガンプレーしていた姿が強く印象に残っている。だがJBLプレーヤーになると、なかなかボールをもらえないのはまだ仕方ないにしても、せっかくボールをもらってもゴールへ向かおうとしなくなってしまう。この3人に限らず、だ。やればもっとできるだろうに―という歯がゆさばかりを残し、前半オーエスジーは15点のビハインドを負った。
だが後半、この歯がゆさをまず井上が払拭してくれた。1年前は東海大のチームメートだった日立#15竹内譲次とマッチアップになると、ローポストから1on1を決める。さらに迷いなく3Pシュートも放ち、日立との3P合戦に参戦した。
「他の同期のやつが結果を出しているので自分も!と思って毎回やっているのですが、うまくプレータイムが伸びなかった。でも今日は28分出られたし、出ればそれなりにできるなって手ごたえがありました。3Pシュートについては、“気持ちはシューターでやれ”と言われていて。夏のユニバーシアードで自分と同じくらいの身長の選手でも打っていたし、よし、と。リーグが始まってから400本インのシューティングをしてきました。なぜ400か?学生時代に石崎(現東芝。東海大のチームメート)がやっていたからです!」
4Q、この井上の3Pで最大18点差から57-68とすると、さらに#24長谷川武がトップからドライブ、ターンしてシュートをバスカンで決めて一気に1桁差に詰め寄った。学生時代をほうふつとさせる華麗な1on1。続いて1ドリブルからジャンプシュートに3Pと持ち前のプレーの幅を見せたが、日立は#15竹内譲次が全て3Pシュートで返し、10点から詰めさせない。日立のチーム席に座っていた関係者が机をバンバン叩いて喜ぶほどだった。
結局日立が逃げ切り、井上は隣で記者に囲まれる竹内譲次を指して、「手ごたえはあったんですけど…こいつは神様に愛されてるんで」と言って笑った。試合には敗れたが、オーエスジーのルーキーズが後半戦、来シーズン以降に向けてどう絡んでくるか楽しみになった。
準々決勝
アイシン 64(14-15 12-18 17-18 21-11)62 三菱電機
オールジャパンはリーグより登録人数が少なく、ベンチに入れなかった選手は全部で18人。そのうち、2〜4年目の選手が半分の9人を占める。先輩との競争もある一方、今年入ってきた“ゴールデン世代”が後ろに迫っている。
プレータイムを伸ばすには、チームの要求に応えつつ、自分の持ち味も出さねばならない。だが、大学まではその選手の特長や個性を軸にチームが作られていたことも多く、若手選手の苦戦が感じられる。
その中で、三菱電機の#0小淵雅は正ガードの#12柏倉とうまくプレータイムを分け合っている。この準々決勝では1Qにブザービーター、3Qにも残り5秒の1on1でバスカンと持ち味の得点力も発揮した。
だが、本人は「まだまだ」。
「毎試合気持ちは入っていないわけではないのですが、自分らしさを出すのが難しいときと出せるときがある。その違いがまだはっきりと自分の中でわかっていないんです」
「ポジションは迷っていない。2番はない」という。専修大時代も1番ポジションを務めてはいた。だが、ボールを長く持ち、スクリーンを受けて自らシュートを打っていくという特徴的なスタイルだったため、“小淵らしい三菱の1番”というスタイルはまだ見えてこない。
どうチームのスタイルになじみ、自分も出していくか。今、若手選手が同じように向かっている課題だ。「今1番心掛けているのは―」小淵は言う。
「調子が良くても良くなくても、楽しくやりたいとコートに出ていっています。楽しいといい結果になるから。きっかけですか?大学の同級生の大宮が入ってきてからそう思うようになりました」。まずはこのやり方で、自分らしさを自在に出せるようになってほしい。
2〜4年目と言えば、24〜26歳の選手たちだ。アジア選手権やヨーロッパ選手権を見ると、チームの主力を務めていてもおかしくない。先輩からたくさん吸収しつつ、持ち味も忘れずにどんどんプレータイムを伸ばしてほしい。
準決勝
東芝 58(9-27 22-19 12-23 15-17)86 トヨタ自動車
東芝とトヨタ自動車の準決勝。1Q、なかなか流れに乗れない東芝はどんどんメンバーチェンジをしていった。
1Q残り5分半、4-8でルーキーの#13菊地から#51北へ。残り4分半、4-10で同じくルーキーの#0石崎から#8節政へ。残り3分半、4-15で#20加々美から#11折腹へ。そして残り1分半、6-22で#34伊藤から#6宋へ。外国人選手以外全員ベテラン選手に代わった。だが、結果的に流れをつかむことはできなかった。
「僕たちのせいです」とスタートの#13菊地祥平は言う。「もっといいリズムを作って渡したかったのですが、今日はスタートが悪過ぎました」
この後、菊地は2Q頭にコートに戻るが、ガードの石崎は2Q残り5分までベンチから見詰めた。15点ビハインドで迎えた後半も1Qのスタートと同じ5人でいったが、ターンオーバーから速攻を許すと直後のタイムアウトで交代に。結局、18分の出場にとどまった。
先にルーキーを出し、ベテランが控えるのが今シーズンの東芝のスタイル。だが、苦しい時にすぐ交代では、今のベテラン選手が持っているような強さが身に付かないのではないか。
試合後、#0石崎巧に「はい、いいえで答えて下さい」と断ってから訊いた。多少流れが悪くなっても、出し続けてほしいと思うか?と。すると、質問を言い終わる前に「はい」と返ってきた。いつもは「そうですね…」と言葉を選んでから話し出すことの多い石崎だから、余計に印象に残った。
だが、出してもらうにはチームからの信頼が必要であり、結論としてはその信頼を得られるよう練習から頑張るしかない。先のきっぱりとした頼もしい答えを楽しみに、待ちたい。
一方、トヨタはベテラン選手や外国人選手が先に出て、リードを作ってルーキーの選手がプレータイムをもらうという東芝とは逆のスタイルだ。普段は#1キャンベルという正ガードがいるが、この大会はオン・コート・ワンのため、#13オバノンが出るときは日本人ガードが組んだ。スタートはディフェンス力を買われた#33宮田。その宮田が流れを作り、ルーキーの#7正中岳城に出番が回ってきた。
「東芝は、石崎と菊地が出るとガツガツこられて嫌な部分もあります。でも若い2人がチームを作っているかというとそうではなくて、2人がそうやってできるのは後ろに節さんと北さんがいるからであり、東芝はそこが強みなんだと思います。それに対して僕らはベテランの方々が前に出てルーキーは思い切りやる。個人的にはリーグからオールジャパンまであまり時間もなかったし、何もできないまま入ってしまったという感じだったのですが、どんな状況でもコーチの言ったことをできる先輩がいる。でも先輩だけが頑張ってもだめで、ルーキーは頑張るのは当然で少しでもできることを見つけていかないとと思います」
快勝も、「トヨタは今日のような流れになったら強いだけ。でも、どうしたらそうなるかをベテランの方々はわかっている」と言う。「僕ももう1段上がっていきたいから、どうしたら勝てるのかをこの大会でつかみたい」。そんな正中には、日本人ガードに外国人ガード、学ぶべき先輩はたくさんいる。さらに、コートの外にも―。
ダブルスコア以上のリードをもらって出ていた2Q、バックコートからボールを運んでいく正中に、ベンチの棟方Aコーチが声を掛けた。
「そのときは、ルー(#1キャンベル)がミスマッチだったから、ボールを集めたり飛び込ませたりしろと言われました。メンバー交代の中で相手とうちのどこが強いか弱いかをわかるように。うちの弱いところは消して、強いところは勝負したりおとりにしたり…といったことをもっと考えてやらないといけません。その“もう1つ先の指示”をしてくれるんです。ヘッドコーチは全体のことを、棟方さんはポイントガードだからガードとしてのところを言ってくれます」
棟方は2シーズン前までトヨタ自動車のポイントガードを務めていた。そういう存在がいるのはいいことではないか、と訊くと、正中は笑った。「はい、でも…めっちゃ厳しいですよ(笑)」
「バスケットの中でガードはやっぱり重要。自分がやらないといけないという自覚、責任を、ルーキーだからとか関係なく100%求めるから、と言われています」
ルーキーだから、若手だからとか関係なく。そう扱われることを、若手選手たちも望んでいるのではないか。チーム内で対等に競争できるのも、それからだ。
取材・文 北村美夏 2008年01月24日
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