『最後まで』(国学院久我山高校 Players' side)

「おい、ディフェンスやるぞ。まだいけるって。」
残り時間1分を切った。福岡大大濠高校のフリースロー。リバウンドに入る国学院久我山高校のセンター近森が言った。

夏のインターハイでは、シードされながら主力に怪我人が続いて緒戦負け。勝ち上がれば、準々決勝で福岡大大濠高校と当たるはずだった。その“幻のカード”が、この高校最後の全国大会・ウインターカップの同じく準々決勝で、叶った。

国学院久我山高校は立ち上がり、第2シード・福岡大大濠高校の“伝家の宝刀”ゾーンプレスに苦しむ。開始4分であっと言う間に5−16。「運びだけしっかりやろう!」というもののフロントコートまでなかなかパスがつながらない。第1クォーターだけで33失点、15点差。「ディフェンス、ディフェンスから!」と何とかオフェンスにつなげていくも、その少ないチャンスでミスが出てしまう。「次1本、1本!」と声を出すのが精一杯。前半終了時点で22点差。

それでもベンチのすぐ後ろのスタンドから、身長の半分以上もある手作りメガホンを手にした部員が席を踏み出して声援を送っていた。

後半は、インサイドの優位を生かし12、3点差まで何度も詰め寄った。しかしすぐに20点差近くに押し戻され、19点差で最終クォーターへ。
残り7分、この日17得点の大濠・児嶋をファールアウトさせる。
残り5分、前からディフェンスで当たり、13点差。
残り4分、司令塔の中山がコースに1歩遅れて5つ目のファール。退場。
残り2分、大濠・竹野の3ポイントシュートで再び16点差。
そのまま残り時間1分を切った。「おい、ディフェンスやるぞ。まだいけるって。」福岡大大濠高校のフリースロー。リバウンドに入る近森が言った。
残り30秒、「最後まで!」周りの声は途切れない。
残り5秒。「1本決めよう!」しかし逆にフリースローを決められ、タイムアップのブザーが鳴った。

71−89。このチームでの最後の試合が終わった。もう1人のセンター、眞部はタオルを顔に押し当てて泣いた。「リバウンドが取れなかった。(大濠高校のバックコートからの)あたりにも最初戸惑って・・・」

試合後近森に聞いた。あの終了直前の言葉の意図は?やはり最後までこのチームらしさを・・・「いや、この試合が僕らの最後の試合になると思ってやってたわけじゃないんで。」

すると、ファールアウトを「残念というか…ショック」と表したキャプテン・中山が口を開いた。「あの…僕言っていいですか?」

「この大会の前、気持ちの差で、チームが崩れた時があって、1〜2日前にやっとなんとかまとまったんです。それで1試合ずつチームワークが良くなって、今日の試合では本当に1つになれて、すごく雰囲気よく出来たと思います。」
そうしてユニフォームを着ている部員もそうでない部員も入り乱れて周りを取り囲んでいたチームメートを見た。 「な?」
皆すがすがしい顔をしていた。
(2003.12.26インタビュー)

<取材・文 北村美夏>