『キャプテン』

 「この4年間は大変だったけど、キャプテンという立場も経験できて、上に立つことの難しさなども学べて本当に勉強になった。今後に生かせると思う。」
と明治大学の菅野芳也は言った。

 「去年は1回戦負けだったし、今回も同じ相手だったし、受けに回らないでチャレンジャーとして、1戦1戦大事に上を狙っていこうと思っていました。」
毎年冬に行われる全日本学生選手権(通称インカレ)。明治大学の初戦は秋田経法大学。前年、関東優位の大学バスケット界において“まさかの”逆転負けを喫した相手だった。
しかし、今回は前半で16点差をつけ、最後に少し詰められるも10点差で初戦突破。さらに2回戦では、入替戦の結果関東リーグ2部降格ながら、2部6位の明治大学からすればなお格上の中央大学を相手に、16得点9リバウンドの活躍でチームを勝利に導いた。

 そして迎えた3回戦。これに勝てば、決勝リーグか順位決定戦進出が決まり、最終日まで試合がある。と同時に、1月のオールジャパン(全日本選手権)への出場権も与えられる。このチームで、もう少しだけ長く、バスケットが出来るのだ。
相手は2部5位の拓殖大学。決して勝てない相手ではない。
しかし、立ち上がり14−28とダブルスコアにされてしまう。第2クォーターで逆に30−12と怒涛の攻撃を見せ、トータルで2点リードして後半に入るが、第3クォーターに勝負所でのシュートを次々と決められ再び2桁点差をつけられると、もう立て直すことが出来なかった。
投げやりなプレーになる選手もいた。菅野はリバウンドやシュートに黙々と絡んでいったが、流れを変えるまでには至らなかった。
19点差。笑ってしまうくらいの負け試合。
「悔しい―。」
人目をはばからず涙をこぼした。

 それでも落ち着くと、違う気持ちが沸いてきた。
「みんな集中して全力でやったからここまで来れた。キャプテンとしては何もやってません。むしろ他の4年生3人が頑張ってくれたので感謝したい。それから、監督、コーチ、保護者の方々にも…全員に感謝したい。」
しかし、試合後のミーティングでは何も言えなかった。その気持ちを声にすることが出来なかった。
「ありがとうございました。」
最後は口を真一文字に結んで頭を下げた。
(2003.12.10 インタビュー)

<取材・文 北村美夏 インタビュー 酒井陽>