アジア枠をめぐって 2004.5.30

アジア枠出場権の行方は大会最終日の今日までもつれていた。
最後までアジアのトップを争っていたのはオーストラリアと中国。

1敗同士で並んでいた両国は、昨日の直接対決でオーストラリアが3-0で勝っている。

今日の試合でオーストラリアが対戦したのはイラン。中国はカナダ。
オーストラリアは負けたとしても1セットでも取ればオリンピック出場が決まる。

イラン戦はここまでの戦いぶりから言えば、オーストラリアに分があるように見えた。
しかしイランはセッター・ホセイニの巧みなトス回しでアタッカーがきっちりと打ち込んでくる。ブロッカーをかく乱する。

オーストラリアはキャプテン・ハワードがひとり気を吐き鋭いAクイックを決めるもイランから流れを奪えない。
セットポイントを握ったセットもあったがオーストラリアは3-0で敗れた。

フロアに近い席で見ていた中国チームのスタッフには笑顔が見える。
しかし、中国は喜んではいられない。

3-0でカナダを下せばセット率でオーストラリアに並ぶことができる。
しかし、そこに得点率が絡んでくる。中国は3-0で勝つことの他に、カナダの総得点を44点以下に抑えなければならなかった。

44点と言うことは1セットあたり相手に約15点しか与えてはいけないということ。最終日までの試合でそんな大差のつく試合はなかった。中国には厳しい条件。

試合が始まった。2階席で見守るオーストラリアチーム。雰囲気は悪くない。

中国は序盤から攻めていて、リードする展開。日本戦では緩やかなサーブを打っていたセッターのワンも強く回転をかけたジャンプサーブを打っていた。カナダはマーティンの強烈なレフト攻撃などで応戦、ついていこうとするが、すでに最終予選枠はフランスに決まっていてそれまでのモチベーションを保てていない。
第1セットは25-22で中国がとった。

第2セット。中国22歳のエース、タン・ビョウが次々にスパイクを決めていく。つなぎにはチョウ・ショウらベテランが活躍しボールがコートに落ちない。
カナダはどんどんと点差をあけられていく。
第2セットは25-19で中国。

ここまでで、カナダの得点は41点。
3セット目に許される中国の失点は3点。

オーストラリア選手はみんな席についている。ただただ、試合を見つめている。

3セット目、流れは完全に中国ペースだった。
カナダが1点、2点と返すたびにオーストラリア選手は座ったり立ち上がったり落ち着きがない。
しかし中国は連続得点を許さない。
スコアは6-3、中国リード。サーブが打たれる。カナダ選手がスパイクで切り返す。
ワンタッチした球をタン・ビョウがはじいてしまった。コートの外へ向け選手が飛び込むがボールはコートに落ちた。

オーストラリアの選手には突き上げるような歓喜はなかった。コーチ・選手らが笑顔で抱き合い、握手をしていた。

そして彼らは席に着いた。中国選手は得点率など知らないかのように気迫のこもったプレーを続けている。
3セット目は25-17、中国はストレートでカナダを下した。
オーストラリア選手たちはコートに拍手を送ると出口へ向けて歩き出した。

歩きながら、喜びを噛みしめる選手たち。ボールケースを担ぎ、抜けるような高い声を出す。声と歩調はまったくのミスマッチで足取りは一歩一歩踏みしめるようにゆっくりだった。

出場権を獲得しても、ヒヤヒヤする展開。
オーストラリア・ウリアルテ監督は「まだまだ。練習が足りないね」と小さな笑顔を作って見せた。

試合後の会見で、

中国・テイ監督は「今日のような勝ち方ができたことは嬉しい」と疲れ気味ながらさっぱりと語り、

以前オーストラリアを率いていたカナダ・デロッコ監督は「今日はオーストラリアに悪いことをしたけれど、前監督としてはハワード、ハーディーらが力をつけたのを確認できて嬉しかった」と少し目を細めた。

アジアに用意された1枚のチケット。
様々な思いが交錯した最終日だった。


S-move編集部 田中美穂
  東京都出身 21歳。日本大学4年。小中高時代はバレーボール選手として青春を過ごす。 培った大きな声は時に編集部内で鬱陶しがられることがある。 感動を与えてくれる、人・競技・ドラマすべてに感謝の気持ちを込めて書いていきます。

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