<ALL2004:男子第80回女子第71回全日本総合バスケットボール選手権大会>
〈1〉「今日は眠れないだろうね」 愛知学泉大・山本監督 レポートはこちら

 この日の愛知学泉大はインカレとは見違えるプレーを披露した。だが終わった後、 「今日は眠れないだろうね」と愛知学泉大の山本監督は言った。

 四日市工業高から揃ってやってきた#4南部と#5桜井が4年生となる今年は“勝負の年”と目されていたが、どの代のチームもそれぞれの特長があり監督にとっては愛着が深いはずだ。だが今年は2・3月のスプリングキャンプに始まりリソウハク杯・ジョーンズカップ、夏の合宿をしたと思ったらすぐリーグ戦、そしてインカレ・オールジャパン。しっかりチームを見られたかどうか振り返る暇すらないような怒涛の1年だったに違いない。

 眠れないのはこの日の選手のパフォーマンスに納得がいかなかったからでも、采配に悔いが残るからでもない。走り続け過ぎて1シーズンが終わったという実感がわかないから、考える事がまだまだあるような気がするからではないだろうか。もちろん、山本監督の姿からは常に代表のA・コーチの仕事を「日本のために」という誇りと「誰かがやらなければならない」という責任感を持って取り組んでいることが伺われ、自分のチームとの両立も最大限果たしてきた。だが、これが2年、3年と続くとチームの中でバランスを取るのが難しくなるのではないだろうか。

 「日本のために」、コーチングスタッフのあり方についてもじっくり考えなければならない。
(北村美夏)

〈2〉「この番号の気持ちを受け継いでほしいと思ったから」 東海大 レポートはこちら

 今年東海大で#5を背負っていたのは4年生の稲葉弘法だった。春のトーナメントでは最上級生らしく、そしてガードらしく声を出してリーダーシップを発揮していたが、12月のインカレでは登録メンバーで唯一の出場なし。シーガルズブルーのジャージを脱ぐことはなく、アップもベンチの後ろや横から見守っていた。そして年明けのオールジャパン、#5のユニフォームは1年生にしてスタートをつかんだ小林慎太郎が身に付けていた。

  「稲葉はインカレの3日前に虫垂炎になってしまったんです」と陸川監督は明かした。「今回も『どうする?』と聞いたらすぐに『コーチの勉強をします』と言ってくれました。彼は卒業後は教員になるんです」。コーチ登録でベンチに入った。「すごく色々なことを選手に話してくれ、助けてくれました」。

  一方の小林はさいたま戦のあと「あー、緊張した」ともらしていた。背番号のことを尋ねると、表情がぱっと明るくなった。「この番号の気持ちを受け継いでほしいと陸川さんが思って回ってきたんだと思います。自分は1年だし、やっぱり重いですけど(笑)。胸を張って歩けるように、稲葉さんに恥じないように頑張りたいです」。

  稲葉はインカレでチームの試合前のアップを見ているとき、かすかな笑顔を浮かべていた。悔しい気持ちもあっただろう。申し訳ない気持ちもあっただろう。でも1番大きなある気持ちがあったから、この表情が生まれたのだろう。それを、今度は小林が育てていく。
(北村美夏)

〈3〉「お疲れ様」 慶應大 レポートはこちら

  東京体育館のCコートに沿った客席がぎっしりと埋まっていた。インカレをほうふつとさせるような慶應ファンの声援。結果的にスーパーリーグの三菱電機相手に力負けしたが、#10竹内のリバウンドからの速攻、#8辻内の鮮やかなカットイン、#11酒井の笑顔、そして#4志村のルーズボールと慶應らしさは随所に見られた。
  その中で試合後、少しの間仲間から離れたところに1人座っていた選手がいる。#5石田だ。1回戦東北学院大戦は6得点、この日は9得点。もちろん、数字に表れないディフェンスや仲間を生かす動きでチームに貢献していたが、大学の試合では30得点以上してみせる時もあるポイントゲッターにとっては力を出し切れなかったという思いがあったのかもしれない。
  だが、惜しみなく送られる拍手と“お疲れ様”という言葉に、笑っていた。泣いていたが笑っていた。それが彼らの1年間であり、4年間だった。
(北村美夏)

〈4〉「おいどうした、がんばれ!」拓殖大 レポートはこちら
 
  拓殖大は前半、ファールトラブルに苦しむも38-45でついていく。だが第3クォーター、中から外から次々に決められスーパーリーグの洗礼を受ける。集中力が完全に切れてもおかしくなかったが、変わらぬスタンドからの声がコートの選手たちを支えた。「おいどうした、がんばれ!」。登録メンバーに入れなくて悔しいはずなのに、リーグ中も“一番”と書いたハチマキをつけ、インカレからはオレンジのTシャツまで着こんで声の限りに応援していた彼らもまた、一緒に戦っていた。
  「いいチームでしたよ」と敗戦直後の池内監督は言った。また、このチームとして最後となる試合後のミーティングの後、1部の選手は目を赤くしながらも笑顔を浮かべていた。その表情は晴れやかですらあった。仲間と顔を合わせれば笑顔がこぼれる、裏方のメンバーが必死で応援する、それはきっと“いいチーム”の証だ。 
(北村美夏)

〈5〉「シュートを打って下さい」 専修大 レポートはこちら

  いつでもチームメートを鼓舞し、相手がスーパーリーグのチームだろうとこきおろしてしまう専修大のスタンドからの声が、この試合中ただ1度だけ、懇願になった。「シュートを打って下さい」。残り20秒を切って、トヨタがボールキープしてこの試合を終わらせようとしている時だった。シュートを打って下さい。もう1度専修大のオフェンスを見させて下さい。だが#5中川直の3ポイントシュートはエアーボールとなり、最後にネットを揺らすことはできなかった。#10波多野がテクニカルファールを取られ、手を挙げて“ごめんなさい”とちょこんと頭を下げて見せるのも今日で見納めだ。

  だが、去っていく選手ばかりでなく、これからを担う選手の姿も印象に残った。特に果敢にゴールに向かう#12伊藤は頼もしく、#13横村ら1・2年生の活躍もあった。 新しいチームの最初のシュートは、どんなシュートになるのか。今から楽しみだ。
(北村美夏)
〈6〉『いいぞ!敦也!がんばれ!敦也!』 日本大・#5太田敦也(2年・C) レポートはこちら

  日本大のセンターは2年生の太田敦也。206cmの長身でA代表候補にも名を連ねた。しかし、同じ2年生の竹内兄弟には及ばなかった。ローポストでボールを受けてもゴールに向かえない、そんな弱さが彼にはあった。
  その太田がこのオールジャパンでたくましい姿を見せた1回戦の豊田通商戦。ローポストでボールを受けると、怯むことなくゴールに向かう。かと思えば、落ち着いてアウトサイドにアシストパスを出す。それでもベンチからは「敦也!だめだ!もっとしっかり!」との檄が飛ぶ。キャプテンでありPGでもある#4日下は何度も「敦也!敦也!」と大きく叫ぶ。川島監督からも厳しい言葉が掛けられる。そこでも太田はめげることなくしっかりとうなずき返す。シーズン最後のここに来て、日本大のセンターは大きく成長した。豊田通商に勝って次は王者・アイシン戦。最強のインサイドプレーヤー・マッカーサーとの対戦となる。
  「JBLのチームとの練習ゲームで外国人選手と真っ向からやれたことで、随分自信がついてきた。」と川島監督が言うとおり、アイシン戦の太田は、マッカーサー相手にも決して臆することなく向かっていった。力の差はまだある。上手くいかないことも多かった。しかし太田は何度も何度もローポストからの1on1を仕掛けていく。ゴール下まで身体をねじ込むと、マッカーサーの長い腕のディフェンスをかわしシュートを決めた。
  「いいぞ!敦也!」沸き返る日本大のベンチ。前日の豊田通商戦では「ダメだ!もっと!しっかり!」という言葉ばかりが聞こえたその声は、今日は「いいぞ!敦也!」「頑張れ!敦也!」に替わっていた。
  一度だけ太田がゴール下でシュートを躊躇した場面があった。目の前にはマッカーサーが立ちはだかっていた。多くの人がそこで「行け!」と思ったことだろう。しかし、彼はシュートを打たなかった。すかさずベンチから声が飛ぶ。「敦也!シュート打っていいんだぞ!」「敦也!打て!」その声に彼は力強くうなずき返した。
  「もう1ヶ月早かったら…」の気持ちは誰もが感じるだろう。しかし、太田はリーグ戦中も、インカレ中も成長し続けていた。その集大成がこのAJでのプレーとなって現れたのだ。
  試合後そんな太田を川島監督は「いや、まだまだですよ。」と語った。太田は「まだまだ」これからも伸びる選手だと。
  インカレ終了後の学生にとってAJはなかなかモチベーションを保てない大会となることが多い。しかし、そこでしか得られないものもあると、試合後清々しい表情を見せた日本大の選手たちを見ながら思った。
(渡辺美香)
〈7〉『負けから学ぶ』 東海大  レポートはこちら

 「点差はついてしまいましたが、いいゲームができました。」試合後東海大・陸川監督は力強くそう言った。
  前日のさいたま戦。日本リーグ1位のチームに大差での勝利。そしてこの日の対戦相手はスーパーリーグ7位の日立。アップセットを狙って臨んだ“チャレンジャー”たちだった。しかし、試合開始からわずか30秒、アクシデントがおきた。司令塔であり陸川監督が「もっとも信頼を置く選手」でもある#11石崎が転倒し、ベンチにさがる。「勝負ですから、なにが起こるかわかりません。仕方ないですね。」試合後はそう語った陸川監督だったが、その時は彼のゲームプランが全て崩れた瞬間だったに違いない。日立側もPG石崎を最重要プレーヤーと見ていたようで、どちらもゲームプランの変更をせざるを得なくなった。
  しかし石崎のいない東海大はここでこれまでにない集中を見せた。替わって入った4年生の#4入野、スタートの#7吉留がチームを引っ張る。これまで「下級生のチーム」といわれた東海大が4年生のリードでゲームを進めていく。これに応えるように内海が、池田が、西堂が、竹内が…。自分たちの上におきたアクシデントに打ち勝つように必死にプレーする。
  1年生ながら今回選手としてエントリーできなかった4年生稲葉(コーチとしてベンチに入る)の番号を継いだ#5小林は、石崎のいないこのコートで日立のA代表ガードに臆することなく挑んでいった。
  点差はどんどん開いていく。しかし、東海大の選手たちの足は止まることはなかった。そしてベンチでは、松葉杖を傍らに置き、左足関節をかばうように膝を抱えながら、石崎がじっと見守る。
  「今選手たちには休養が必要です。石崎はこの1年間本当によく頑張りました。この怪我はきっと神様がそんな彼に『休みなさい。』といったのでしょう。」(陸川監督)

  東海大のシーズンはある意味思わぬ形で終わった。しかし、この日の試合で得たものはきっと大きいにちがいない。#4入野は卒業後高校の教師として、指導者を目指す。今日の経験が活かされ、これからこのAJのコートに立つ選手を育てる意欲につながったことだろう。#12内海はコート上でリーダーシップを発揮したプレーを見せた。石崎がいないことでプレーヤーとしての責任感を強く感じたに違いない。1年生の#5小林はA代表ガードというレベルの高い選手とマッチアップし、自分の力を出す“気持ち”を持つことができた。そして石崎には、自分の出られないゲームを見つめ、なにかを感じ、つかんでいてもらいたい。
  『負けから学ぶ』ことがこのチームをもっとも強くするように感じた。
(渡辺美香)

<取材・文 北村美夏> 

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