<デフ代表>

〈1〉『可能性。』  (6/12:男子第2回合宿1日目) レポートはこちら
デフバスケットボール。“聞えない人たちのバスケ”と松本マネージャーから初めて聞いた時、思わず聞き返した。「スクリーンの時はどうするんですか?」
オフェンスでのキャッチボイスやディフェンスでのスクリーンボイスなど、バスケットにとって“声”は欠かせない要素だ。それがないバスケットってどんなものになるんだろう?想像がつかないまま体育館に足を運んだ。

そこで思った2つのこと。
1つはにぎやかさ。 キャッチボイスやボールコールを出す選手もおり、声を出して話をしているから一見デフバスケットボールとはわからないかもしれない。冗談を言い合ってリアクションも大きく、笑い声も絶えない。
もう1つは、様々な意味で“部活みたいな”バスケットだということ。
日本代表に対してこの形容は失礼かもしれないが、どの選手もひとつひとつの指示に真剣に耳を傾けている姿がとても印象的だった。ポイントがおさえられていない選手には自然に他の選手が何度も教え、失敗してもあきらめず出来るまでやる。
もちろん、そうして教える側の選手でも、ボールコントロールをミスしてレイアップを落としてしまったり、左手でシュートにいけなかったりといった場面もあった。
部活みたいに一生懸命。でも、部活みたいに粗い。
だから、部活みたいな可能性がある。

林ヘッドコーチ曰く、“皆うまくなりたいという気持ちがあるのがわかるから、教えてあげたくなる”。先に「バスケットには“声”が欠かせない」と言ったが、もう1つ欠かせないものがある。それがこの“気持ち”だ。うまくなりたいという気持ち。そして、仲間を信頼する気持ち。ろう者が使う“手話”は、見ないとわからない。つまり、何かをしながら…というわけにはいかない。もちろん話す側も両手を使うから、何かほかのことをしていてもその手を止め、相手がわかってくれたかどうか確認するために相手を見る。そうしたコミュニケーションの積み重ねがあるから、言うべきことは遠慮なく言うが、ミスしてもそれを相手のせいにしない。チームスポーツの一番大事な土台は、もう出来ているのだ。

だから可能性がある。

〈2〉 『今日はありがとうの日』 (9/25:男子チャリティマッチ) レポートはこちら

  今日のデフ代表には、強化合宿で見せたような必死さはなかった。
ディフェンスで必要な“コミュニケーション”が声で出来ない分、ヘルプやローテーションが遅れてノーマークのシュートを打たれてしまうのはしょうながい。だが、オフェンスでは松下の選手の迫力におされて切り込んでいけず、ディフェンスでは怪我をさせてはいけないと気を使ったのか遠慮があった。途中、交代でコートに入った選手がベンチで感じたことや、自分の持ち味を精一杯コートで表現しようとしていたが、それもまたベンチに戻ればコートはもとの雰囲気になった。

もちろん、こうしてたくさんの人の前で、スーパーリーグのチームに相手をしてもらえることに、感謝の気持ちがこんなにもわいてきて、それがこんなにも表情に表れるのは彼らの暖かさだ。しかし、こうして“競技”として認められ始めると、難しくなるのは勝ちをどこまで求めていいのかということだ。

ただ、その適正な距離がつかめない中でも、近付いて手を伸ばした松下の心意気は素晴らしい。シーズンインを1ヵ月後に控えた今、快く迎え入れたチームも、新潟−東芝戦の後も応援を続けたファンも。

もちろん、デフバスケットは走り始めたばかりだ。こうした機会を得られるまでこぎつけたところだ。だから、今日は“ありがとう”がそのまま表れた。これから、デフリンピックを経験して、悔しさや喜びを味わっていくうちに、“ありがとう”が違う形で表れるようになっていくといい。
どんなバスケットでも、たとえそれが感謝の気持ちが作用したものだとしても、コートに出たら“逃げない”ことが、支えてくれる人たちへのメッセージになる。

<取材・文 北村美夏>