<日本代表2004>

〈1〉 『最初の1歩〜スプリングキャンプ組の挑戦』  (4/15:第1次1日目) レポートはこちら

つい1ヶ月前、柏木はA代表を「ふつうでは入れない、すごい人ばかりいるところ」と表現した。そのA代表での初練習。中央大学の1年先輩である五十嵐の存在もあり、それほど硬さは見られなかったが、PGとして他のメンバーをコントロールするのはやはり難しかった。いつもチームの流れが悪いときに出る声が出ない。また、渡邊とマッチアップしたときは力強い踏み込みにはじかれ、ディフェンスが後手になってしまって「柏木、ディフェンス!」とジェリコHCに言われることも。しかし、それでも集中力を切らさずやり遂げたのは柏木の持ち味だ。いくつか鮮やかなアシストを通して、ジェリコHCお決まりの「ブラボー」を引き出す場面もあった。「朝が早くてつらい(笑)」という新しい生活に慣れ、バスケットに多くの集中を割けるようになれば堂々としたゲームメイクが見られるかもしれない。

菅谷・桜井は、所属が関東の大学ではないということもあり、驚きをもって迎えられていた。
菅谷は、キャプテンの古田に「いやー大きいですよ。僕(199cm)が並んだって大きいですよ(笑)」と言わしめた。最初こそ、スプリグキャンプの時と同じく談笑する他のメンバーから1人離れてストレッチしていたが、スクリメージでは最初から気後れすることなく「スクリーン」と声を出し、積極的にシュートを狙っていた。精神的に1回りタフになったという感がある。後は、お膳立てしてもらっていたゴール下シュートの確実性を上げ、ファールにならないディフェンスを身に付けていきたい。

桜井は、2メンではダンクで身体能力の高さを見せ、スクリメージではミドルシュートを次々に決めてみせた。古田キャプテンも「初めて見たが、とても身体能力が高くてJBLでも通用するのではないかと思う。いいシューターだな、と思いましたよ」。しかし、こうも続けた。「でもハーフコートだし、1時間くらいしか見ていないから、まだ何とも言えません」。本人も言うように、「今日はボールを回してもらって打たせてもらっただけ。頑張りどころはこれから」である。
ユニバも掛け持っており決して楽ではない1年となるが、「去年のインカレの時、(山田)大治さんとか1人違うっていうか、余裕がありましたよね。自分もそんな風になれていればいいな、と思います。」と楽しみの方を強く感じている。

彼らの成長は、日本のバスケットボールの未来に欠かせない。今日、その最初の1歩が刻まれた。

〈2〉『笑う代表』 (4/21:第2次1日目) レポートはこちら

伊藤と柏倉が先頭。柏木は先輩・五十嵐のそば。キャプテンの古田は、新しく入った桜井に話し掛けている。ランニングの風景。今日はコーチが参加していなかったので、ストレッチに入る時皆が古田に視線を向けた。「いや、俺に期待するなよ!」と言って柏倉にどうぞ、と手でジャスチャーをする。真ん中で進行するのは柏倉になった。しかし、淡々と進めすぎて「これ以上長くやったら眠ってしまうよ」とジェリコHCより苦情。

オールコートのドリブル鬼ごっこは、「鬼は桜井から」とジェリコHCが言うやいなや始まった。桜井と五十嵐とが目が合うと、お互いに笑った。後は1on1。桜井はプレー中はポーカーフェイスをめったに崩さないので、A代表に馴染んでいることをうかがわせた。それからも“目が合って笑った選手”が決まってターゲットになっていた。

オールコートの3on3では、オールコートでプレッシャーをかけるルールにもかかわらず、人数が少なくすぐに順番が回ってくるため体力的にきついメニューとなったが、静まるたびに網野、柏倉、古田が声を出して盛り上げていた。

ハーフコートの3on3では、11点先取で点差が詰まってくると、ゴール下の攻防やラインを割ったボールの所有権争いが白熱。ジェリコHCは余程のものでないとファールの笛を吹かず、大の大人がムキになって主張しあっているのを笑顔で見守っている。楠本通訳も、練習中は厳しい顔付きをしているがHCが笑った時は笑っている。中村トレーナーも呆れつつも笑い、貝塚マネジャーは必死にこらえようと口元を押さえている。

「もうほんと酸欠きてた!」とは練習後の柏木の一言。それでも顔は笑っている。それを、まだ本当は力を残している出し惜しみととるか、それとも他の何かのせいか。

断言できるのは、確認のために足を運ぶ価値はある、ということだ。

〈3〉『笑顔の理由』 (4/24:第2次4日目) レポートはこちら

「自分が呼ばれたのは、やっぱりこれからの選手の手助けという役割を任されているからなんだろうなって思ってます。」
と代表の中で唯一の30代で、11年連続の代表選出となる古田は言った。
手助けのため。しかし、それだけがこの厳しいメニューの中でも笑顔を絶やさないでいられる理由なのだろうか。

「若い頃は何も考えずにやっていたけれど、去年くらいから(代表メンバーが)急に若返ったしね。手助けと考えるようになったのはその頃からかな。」
平均年齢23.3歳。10代の選手が4人おり、初選出の選手も5人。さすがに緊張しているが、彼らが「みないい人だから馴染みやすい」と口を揃えるのはこの古田が笑顔を絶やさずに声を掛けているのが大きい。
「笑顔はね、ごまかしですよ(笑)。自分がキツそうな顔をしてはなぁというのも多少はあるし、やっぱり楽しくやっていかないと。」
世界選手権(2006年)のメンバーに入りたい。北京オリンピック(2008年)に出たい・・・そんな夢を口にする学生選手に比べてとても控えめだ。
「若い選手はこれからがあるけれど、自分はまずこの1年を無事にやり遂げられれば…という感じですね。先のことは特に考えていません。できることをやって、なんとかついていくだけです。」
そうして積み重ねてきたことが、11年目の代表選出につながったのかもしれない。
「今の時期(JBLシーズンインは10〜11月)にこのレベルの練習をしているのはさすがに体力的にも精神的にもしんどいんですけどねぇ(笑)。でも・・・自分のためでもありますね。この歳で選ばれているのは自分だけだし、それがいい結果につながればと思います。前年良かったのが今年につながってきていますからね。チームと代表、両立させるのはもちろん難しいことだけれど、逆に考えれば幸せなことだし、それが自分にとっていいリズムになっているんじゃないかなと思います。なので、出来るだけ続けていければな、と思っています。」

五輪出場を逃した悔しさと、1998年世界選手権出場権を自らの手で勝ち取った喜び。この両方を知る古田は、練習後の別メニューで体力を使い切って座り込む学生選手に1人ずつ声を掛け、この日練習に参加できなかった竹内譲とも少し話をしてから、体育館を後にした。

〈4〉『THE LONG AND WIDING ROAD』 (4/25:第2次最終日) レポートはこちら

第2次合宿は、6人の学生選手が参加。彼らが顔を出した金曜日には雰囲気がぐっと活発になるなど、そのフレッシュさは代表に新しい風を起こしてる。

では、このチャンスをものに出来る選手は何人いるだろうか。

練習中、1on2や2メンでは、身体能力の高さや、体格に似つかわしくないとも言えるボールコントロール、持って生まれたセンスなどを随所に発揮していた。しかし、5on5、特にオールコートになると、ディフェンスや判断力などの点でまだ多くの課題が見られる。もちろん、週末だけの参加や、A代表に初選出の選手ばかりなので、すぐにJBLの選手のように出来ないのは当たり前だ。しかし、上へ行きたい、という気持ちを持って練習に取り組んでいる選手は、決して彼らだけではない。

「この中の何人かは埼玉(2006世界選手権)、北京(2008五輪)に入ってくると思う。」
これは古田キャプテン、ジェリコHCらが口を揃えて言う言葉だ。その通り彼らの将来は楽しみであるし、日本の男子バスケットの未来を担っていってほしい、という期待もある。
遠く長い道。それでいて、長いようで短い道が、彼らの前には伸びている。 しかし、それがどんな道なのかは、最後まで駆け抜けてみないときっと見ることが出来ないのだ。

〈5〉 『パッサーという仕事』 (5/23:第6次最終日) レポートはこちら

柏木のパスが冴えている。
もともとA代表に呼ばれたのも、「日本のバスケ選手の中でも珍しい、非常に良いパッサー」とジェリコHCに評価されたからだが、6次にわたる強化合宿を経てそれに磨きがかかっている。
速攻での1本のロングパス。ハーフコートでの裏を付くパス、うまくフリーの選手にシュートを打たせるパス。
ジェリコHCがパス1つ、シュート1つに細かく注文を出したり、A代表のチームメートが柏木のイメージを感じ取れるというのもあるだろう。
柏木の入ったチームは、滞りやためらいなくリズミカルにボールが動く。
7月のキリンカップでは、柏木の繰り出すパスに注目だ。

〈6〉『武者修行を終えて』 (7/7:第8次1日目) レポートはこちら

会見場に入ってきた古田キャプテンの肌の色が濃くなっていた。野外トレーニングの結果だろう。
公開練習では、次々と出て来る選手の足が近付くほど1回り太くなったように見える。
そして、他のメンバーより少し遅れてロッカールームから小走りで出てきた菅谷の、その走り方さえ遠征前よりだいぶ膝があがるようになっている。
桜井は、ミスした後の表情が、「悔しそう」から「鬼気迫る」の方が近くなった気がする。
伊藤は持ち前のプレーを生かしつつ、より洗練されたゴール下の1on1を見せた。五十嵐もスクリーナーへ何度も絶妙のアシストパス。菅谷はスクリーナーになる動きに迷いがなくなった。どれも遠征前はあまり見られなかったプレーだ。

どれも小さなこと。1ヶ月ぶりゆえの“気のせい”かもしれない。選手に聞いてみてもそれ程意識していない。
でも、裏を返せば1人1人がレベルアップしているから、このチームにいると実感できないだけとは言えないか。

今まで“選手のアンビション”を何度も口にしてきたジェリコHCは、欧州遠征を振り返って「このチームには才能と、ハート、そして勇気がある」と力強く言い切った。
この若い代表チームにはじめて感じた”風格”が、本物かどうかはいざ、キリンカップで。

〈7〉『120日』 (8/12:国際試合最終日) レポートはこちら

「この結果の後ろには、120日に渡る合宿があります」とジェリコ・パブリセビッチヘッドコーチは言った。

4月から毎週のように行なわれた合宿。学生は週末のみの参加となったが、今年から始まったスプリングキャンプと1ヶ月間に渡る欧州遠征に参加した。社会人選手も怪我や事情などで辞退が相次いだとはいえ、プログラムに参加した選手は確実に進化した。
「これだけやっているのだから、成長して当たり前。(ジェリココーチ)」「こんな世界があるんだなぁと思った(選手)」
経験が選手を変えるのだ。

能力はあっても経験を積まなければ、経験を積んだ選手にいずれは追い抜かれる。もちろん、参加した選手たちがこれほどの伸びを見せることがこの2年で証明されたのだから、能力のある選手がきちんとセレクションされればもっと伸びるだろう。だが一口に能力と言っても、運動能力や身長、ボールを扱う技術だけでは足りない。コーチが良く口にする“アンビション”、バスケットができる感謝の気持ちと代表への誇りを持っていなければならない。

その2つをあわせ持っているのが今のこの12人なのだ。ジェリココーチは120日間最大限に自分の仕事を果たしてくれたし、メンバーはこれからも前を向いて走っていく。

<取材・文 北村美夏>

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